それは聞かないで!
さておき「バレンタインデーは製菓会社の陰謀だ」という人がいるが、2月14日は、紀元前に成立したローマ神話に出てくる結婚を司る女神「Juno」(ユノ、ユーノー、ジュノーなどの表記がある)を讃える日に由来しているとか。そういった歴史的背景を考えれば、決してそんなことはない。
けれどもバレンタインデーにチョコレートを贈る習慣は、日本独自のもの。しかし「陰謀」というほどのものとは思えない。販売促進の一環としてチョコレートが選ばれた理由は「ハート」にあるだろう。
「不二家ハートチョコレート」は、その名の通りハートの形をしている。けれどもこれは別にバレンタインデー用に開発されたものではないのだ。日本でチョコレートを贈る習慣が根付いたのは1970年代後半とされているが、「不二家ハートチョコレート」は1935年から発売されていた。
日本人とチョコレートといえば、1939年〜1945年の第2次大戦後に、日本の子供たちが「ギブミー・チョコレート!」と叫びながら、進駐軍の兵士にチョコレートをねだった話が想起される。けれども戦前からあったわけで、別に進駐軍がチョコレート文化をもたらしたというわけでもないようだ。
ところが1970年代後半に小中高生女子が男子に告白するためのアイテムとして、金銭的にも高価でなく手作りするのも難しくないチョコレートを自主的に選んだことから、それまで販売促進に手を焼いていた製菓会社も驚くほどの勢いで、定番のプレゼントとして浸透したということらしい。バブル期などに「女子中高生の流行が売れ行きを左右する」とまことしやかに伝えられるようになった原因も、その辺りにあるのかもしれない。
そもそもチョコレートの原料であるカカオには、恋愛成分とも呼ばれるフェニルエチルアミンが多く含まれているから、それを意中の相手に贈るのは科学的にも間違ってはいないようだ。フェニルエチルアミンが脳内麻薬物質ドーパミンを放出させることで、恋をしている時と同じ作用をもたらす。
チーズにはチョコレートの10倍もフェニルエチルアミンが含まれているとか。そうすると3月14日のホワイトデーには、チーズを使った食品を贈るのがいいかもしれない。プレゼントの金額ではなく、恋愛成分で「10倍返し」というわけである。もちろん10倍以上のラヴも添えて。(工藤伸一)