千鳥の場合は早々と岡山を出て、東京ではなく、“笑いの総本山”大阪で勝負に挑んだ。関西という土地は、とかく笑いに関してはプライドが高い。そのため、岡山弁むき出しの千鳥の漫才は当初、好感を得られなかった。しかし、千鳥には武器があった。ロケ力だ。
関西を拠点にしていたころは、“最強のロケ芸人”の異名を取り、年間200本以上をこなした。東京キー局と異なり、低予算で少数精鋭のローカル番組という状況下で、である。そのため、鍛えられた。土俵際で大悟とノブが発するフレーズに、ハズレがなかった。
そうして誕生したのが、テレビ埼玉という独立地方局が制作する冠番組『いろはに千鳥』だ。千鳥にとっては東京進出後、初めて手に入れた関東発の冠レギュラー番組。今年、開始から5年目に突入した。
テレ玉制作の30分番組が一躍脚光を浴びたのは、「1日8本撮り」という日常を『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で嘆いてからだ。以降、『いろはに千鳥』の視聴者も増え、番組冒頭から夜のときは、「これが8本目かも」と推測するようになった。これは、マニアの楽しみ方である。
ある日のスケジュールは、13時半開始の23時40分終了。そのタイムスケジュール表を、千鳥はオープニングで見せられた。恐ろしいのは、あくまでもこれは、『いろはに千鳥』が抑えた時間帯。千鳥はこの前後にも、ほかの仕事をしている。ノブいわく、「フリーザが出てきたばっかりのレベルじゃ」。大人気アニメ『ドラゴンボール』の登場人物で、片っ端から攻撃して破壊する登場人物にたとえて、自己を哀れんだ。
低予算。愚痴も多い。しかし、通常回で、ノブが大好きなももいろクローバーZが駆けつけて、ロケに合流する神回もある。かと思えば、ロケが何本か流れると、カメラクルーから「よっしゃ……」と心の声が漏れ伝わってくることもある。
マイナー色を失わないことによって、千鳥のメジャー感がより濃く打ちだされる不思議な番組。「い」「ろ」「は」でカウントされるDVDシリーズは現在、「た」「れ」「そ」まで発売されている。総本数18本。ロングランをめざす気、満々だ。それは、千鳥の芸人人生そのものといえよう。(伊藤雅奈子)