4球団競合となった佐々木朗希(大船渡=3年)の交渉権は、千葉ロッテが引き当てた。井口資仁監督(44)は「育成プログラムはできている」と胸を張ったが、佐々木はまだ体力も兼ね備わっていない。未完の大器をどう育て上げるのかも注目だが、高校球界は横浜DeNAベイスターズのドラフトに注目していた。
智弁和歌山の「強打の捕手・東妻純平」が4位指名された。智弁和歌山の監督は、元プロ野球選手の中谷仁氏である。
中谷氏は1997年ドラフト会議で阪神から1位指名された。将来を期待された大型捕手だったが、プロ野球人生は順風満帆ではなかった。その理由は、「故障」だけではない。“高校卒捕手だけの洗礼”も浴びている。
「高校卒の新人捕手が出したサインに首を縦に振るプロ野球投手なんかいません。高校卒捕手が二軍戦でマスクをかぶる時は、ベンチからコーチがサインを出しています」(球界関係者)
プロ野球チームにはスコアラーがいる。対戦バッターの得意コース、苦手コース、好きな球種が報告され、それをもとに配球が決まっていく。高校卒捕手は対戦バッターに応じて組み立てる配球術を経験していない。
高校野球は一発勝負のトーナメント形式、それに対し、大学はリーグ戦、社会人も地区予選でほぼ同じチームとぶつかる。大学、社会人の捕手はプロに近いデータ収集の野球を経験しているが、高校野球は「初めて対戦する学校」との試合になる。昨今では強豪校同士の練習試合も少なくないが、基本的には初対戦だ。そのため、高校卒捕手がサインを出し、先輩投手がそれを受け入れるまで、「最低でも2、3年」は掛かるそうだ。
谷繁元信氏のように例外もいる。しかし、圧倒的多数は「先輩投手のサイン拒否」に苦しみ、中谷氏もそれに泣かされた。教え子・東妻にはプロ野球界の「ウラの厳しさ」も伝えるだろうが、二軍監督・三浦の育成手腕が試される場面でもある。
「三浦さんは厳しい練習をこなし、這い上がってきたクチです。ドラフト下位で入団し、注目されない苦しみも味わいました。二軍選手には厳しいノルマを課し、精神的に強い選手を育てていくのではないか」(前出・同)
私見だが、二軍監督・三浦は厳しいだけの指導者にはならないのでは? 彼は現役引退後の2年間、高校、大学、社会人のグラウンドにも顔を出し、「アマチュアがどんな練習をやっているのか」を勉強していた。プロの練習を新人選手にいきなり押しつけても伝わらないと分かっていたからで、三浦流の育成ビジョンを確立させているのではないだろうか。現役晩年には、高校卒捕手の高城俊人(19年オリックスを戦力外)ともバッテリーを組んでいる。高校卒捕手の至らなかったところも分かっているはずだ。
二軍監督・三浦はドラフト指名した7人の大半を預かることになるが、一軍指揮官への昇格時期は東妻の成長によって決まりそうだ。(スポーツライター・飯山満)