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【不朽の名作】宮崎駿作品の中では一番面白いかも? 「紅の豚」

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 今回は宮崎駿監督作品の『紅の豚』(1992年公開)を紹介する。この作品は、前作の『魔女の宅急便』に続いて劇場用アニメ映画の興行成績日本記録を更新した作品だ。このあたりからスタジオジブリの作品は、毎回大規模な宣伝が打たれる大作となっていく。

 宮崎監督本人は同作の企画段階で、「中年男向けのマンガ映画」にしたいとコンセプトを語ったそうだが、その背景もあり、同作と現在長編映画引退作となっている『風立ちぬ』は、他作品と話の進み方が違っている。大体主人公格のヒロインがいて、そのヒロインを男性キャラがエスコートする役割になっていくのが定番だが、この作品では、とあるきっかけで豚になってしまった男、ポルコ・ロッソを中心に話が進んでいく。

 主人公がなんで豚なのかとか、演出がどうこうとか作画がこうだということは、散々特集などで扱われ、地上波でも同作は頻繁に放送されているので、ここでは登場する飛行機やら世界観を中心に扱う。

 同作は宮崎作品では珍しく、現実の世界を元に作品が作られている。舞台は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の「戦間期」と呼ばれる時代が舞台だ。この時代設定が、登場する飛行機がことごとく下駄履き(フロート付き)の水上機や飛行艇だということの理由付けになっている。物語に登場する空賊と呼ばれる架空のならずもの集団や、フリーの賞金稼ぎが、アドリア海の無人島を拠点にしているという理由も、水上機であることの理由ではある。しかし、当時は現実にも、引き込み式の降着装置が定番化される前で、滑走路の舗装技術が未熟だったせいもあり、衝撃の少ない海上を離水する水上機の方が高性能な機体を作れるという信仰があった。

 劇中のセリフで頻繁に出てくる「シュナイダーカップ」も実在した大会だ。「シュナイダー・トロフィー・レース」と呼ばれ、1913年から1931年まで欧米各地の持ち回りで開催されていた大会で、最速の水上機を決める大会で、ポルコのライバルポジションとして登場した、ドナルド・カーチスが所有している機体も、同大会でアメリカのカーチス社に2連覇をもたらした「カーチス R3C-2」をモデルとした機体となっている。また、ポルコの第一次大戦時代の戦友のフェラーリン少佐が使用している「マッキ M.39」も、同大会で活躍した機体だ。ちなみに、同大会は特定の企業が3連覇すると、自動的に大会が終了する仕組みとなっており、3連覇を果たしたのがイギリスのスーパーマリン社だった。第二次大戦で使用された戦闘機・スピットファイアーシリーズも、この時活躍した水上機が元となっており、当時は国家の威信も背負ったレースだったことがうかがえる。

 また、この作品は時代設定が、1929年となっていることで、ムッソリーニのファシスト党の独裁下であった政情が、メインの登場人物のお気楽なノリの合間に垣間見える。ポルコが秘密警察に追われるシーンはもちろん、銀行に行くシーンでも銀行員から「どうでしょう愛国債権に協力してみては?」と言われるなど、直接的な描写は少ないものの独裁政権下であることが暗に描写されている。

 戦間期というのは、世界恐慌後の世界中でのナショナリズム台頭や、第二次大戦後の冷戦構造とは違い、どこの国家もごちゃごちゃだったのにも関わらず、その整備のされてなさが、ファンタジー的な魅力を与えるようで、活き活きとした人物が登場する作品が多い気がする。アメリカの禁酒法時代を扱った映画などだと、マフィアが暗躍する暗い世界にも関わらず、人物自体のノリは軽いものが多い。同作もそれらの作品と同じく、キャラがとにかくいい意味でうるさい。

 作中に登場する空賊は、悪役にも関わらず、極悪さは微塵も感じない、どこか憎めない、どうしようもない連中に描写されている。カーチスも、惚れっぽいキザ男で、映画に自ら出資して主演し、将来は大統領になりたいなどと話す、ハワード・ヒューズとロナルド・レーガンを掛け合わせたような存在になっている。ポルコ自身も、第一次大戦で大きな闇を背負っているものの、表面的にはその暗さを一切感じさせない。もし他の監督の作品だったら尺を使って過去の暗い部分をもっと顕著にさせていたかもしれない。作品の設定上、一応命のやり取りをする可能性があるので、この軽ノリを嫌う人もいるかもしれないが、この描き方が、宮崎監督なりのハードボイルドなのだろう。印象に残るセリフなども非常に多い。

 加えて、後の宮崎作品に感じるような、宗教映画的な気持ち悪さもこの作品にはない。後の大作になればなるほど、バックグラウンドやキャラのセリフや行動の端々に、そういった気持ち悪さが目立つようになり、人によっては宮崎作品を観るのも嫌だと思える部分もあるが、この作品はそういったメッセージ性が捉えようによってはあるのだが、ストーリーに食い込むこともなく、普通に楽しめる作品となっている。純粋にエンタメとして鑑賞する場合、同作は宮崎作品、いや、ジブリ映画のなかでも最も優れた作品かもしれない。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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