これを守口が不満に思わないわけはない。そこで守口は手を尽くし、知り合いのつてをたどって彼女に連絡を取った。そしてある日、彼女を自宅に呼び出したらしい。
するとその日、守口の部屋からは激しく言い争うような人の声や、物が壊れるような音が外まで聞こえてきたという。
これについて近所の住民は、「どうやら2人は、かなりひどいケンカになったらしい」と言うが、はっきりとしたことはわからない。
ともかく、その後は彼女が守口の住むアパートに来ることはなくなってしまった。
ここまでは世間にありがちな痴話ゲンカなのだが、守口は怒りの矛先を友人の中島さんに向けたのである。
どういうわけか、守口は「中島さんが女性を奪った」、あるいは「女性が中島さんに乗り換えた」と思い込んでしまった。中島さんが携帯電話で話をしているのを見ただけで、「あの女と話しているんだ」などと邪推するようになったという。
しかし、それはどうやら事実無根で、当の中島さんは女性を部屋に上げたこともなければ、ろくに話したこともない。だから、「最近、守口さんはなぜか機嫌が悪い」という程度にしか感じていなかった。
だが、守口は中島さんに対して、嫉妬と憎悪の念をつのらせていた。
そして、事件当日の午後8時頃、守口は刃渡り20センチもあるサバイバルナイフを手にして、中島さんの部屋に怒鳴りながら押しかけた。そして、対応に出た中島さんの胸や腹などをメッタ刺しにして、ついには首にまで切りつけたのだ。
いきなり襲われた中島さんは、突然のことでなすすべもなかった。首や腹部など十数か所に傷を負い、出血性ショックで一時は重体となったものの、その後回復して一命を取りとめた。
事件後、守口は自ら消防に「ケガ人がいる」と通報。駆けつけた中央署員が問いただすと、「自分が刺した」と犯行を認めたため、その場で緊急逮捕された。
三角関係の真偽はともかく、友人をいきなり殺そうとするとは、あまりに短絡的だった。(了)