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【幻の兵器】ソビエト侵攻戦後にひとつの伝説を生んだ「試製41cm榴弾砲」

 大正最後の年となった15年(昭和元年)、大阪砲兵工厰内火砲第一工場において、日本陸軍史上空前の巨大火砲が竣工した。仮に「四一センチ榴弾砲」と呼ばれていたその砲は、第一次世界大戦に登場した各国の巨砲(ドイツの38センチ砲やドイツの42センチ榴弾砲、フランスの52センチ榴弾砲)に刺激を受けた日本陸軍が開発したもので、敗戦に至るまで帝国陸軍最大の火砲であり続けた。

 だが、四一センチ榴弾砲は完成する前に存在意義を失っていた。

 というのも、四一センチ榴弾砲は沿岸防備要塞用と考えられており、本土防衛用の切り札として東京湾に設置される予定だったが、ワシントン軍縮会議により日本海軍が多くの戦艦を廃棄することとなり、余った戦艦の主砲を「沿岸要塞用」として陸軍に移管することとなったのである。そのため、四一センチ榴弾砲は射撃試験を終了した段階で、試製のまま無用の長物と化してしまう。結局、昭和12年になって陸軍予算が大幅に増額され、ソ連との戦争をにらんだ軍事力の整備が可能となるまで、四一センチ榴弾砲は倉庫で眠り続けた。

 しかし、予算の増額にともなう対ソ戦整備が決まったことから、四一センチ榴弾砲も満州へ送られることとなり、竣工後に実用化された各種新技術が大幅に取り入れられた近代化改修も行われた。特に照準装置に新式のレオナード式制御を導入したことと電動揚弾、装填装置の採用によって、命中率、発射速度とも大きく向上し、兵器としての有効性を一段と高めている。改修れた四一センチ榴弾砲は、満州東部国境の最前線であり、最強の要塞である虎頭要塞に配備されることとなった。軍艦と対決する必要のない陸上要塞として考えた場合、四一センチ榴弾砲のような大口径火砲の配備は他に例を見ない。しかし、日本陸軍には秘密の計画があった。

 要塞の東にはウスリー河をはさんでソ連領イマンがあり、シベリア奥地からウラジオストックにつながる重要な交通路であるシベリア鉄道とスターリン街道の中継点となっていた。さらに、イマン市街のすぐ北にはシベリア鉄道のイマン鉄橋があり、イマンの街を占領できないまでも、鉄橋を破壊するか砲撃で市街を制圧できれば、ソビエト軍の物資輸送に深刻な影響を与えることが可能と考えられていた。

 日本陸軍最大の火砲であり、虎頭要塞最大の火力を誇る四一センチ榴弾砲は、イマン鉄橋破壊の切り札として送り込まれたとされている。加えて、要塞内部に渡河攻撃隊を収用して、敵の反対砲火から保護することも要塞の大きな任務のひとつだった。つまり、虎頭要塞は単なる国境要塞ではなく、イマン渡河侵攻部隊の途方もなく巨大な出撃基地であり、極めて攻撃的な重砲撃陣地でもあったのだ。

 ところが、日本はアメリカの戦争を始めてしまい、対ソ戦どころの騒ぎではなくなっていた。そして、運命のソビエト侵攻を迎えることになる。昭和20年(1945)8月9日午前零時、要塞に対する重砲の集中砲火を皮切りに、いよいよソ連軍による侵攻が始まった。要塞守備隊は砲火のどかない四一センチ榴弾砲による反撃を開始し、イマン鉄橋の破壊に成功、日本軍最大の火砲は、見事その任務を全うしたのである。

 さらに、四一センチ榴弾砲は砲身の加熱によって射撃不能となるまでソ連軍へ射撃を続け、大損害を与えたとされる。とは言え、翌日にはウスリー河を渡河したソ連軍歩兵による本格的な攻撃が開始され、早くも要塞の一角がソ連軍に占領されてしまう。結局、守備隊に敗戦が知らされた段階では要塞の主要部はほぼ占領されており、降伏を拒否した将兵も自爆、要塞内部に取り残された小部隊も掃討された。ソ連軍に大きな打撃を与えた四一センチ榴弾砲も、砲塔陣地の砲口部に撃ち込まれた敵弾が内部の火薬に引火し、陣地ごと破壊されたという。

 だが、この時の四一センチ榴弾砲の戦いぶりは、戦後にひとつの伝説を生んだ。四一センチ砲弾がソ連軍のスターリン重戦車に直撃し、跡形もなく吹き飛ばした、という物語である。もちろん、これは単なる伝説に過ぎないが、秘密兵器、陸軍最大の巨砲という存在に対する、人々の期待を色濃く反映したエピソードではないだろうか。

 結局、要塞守備隊は逃げ込んだ居留民共々ほぼ全滅し、極わずかな生存者たちだけが、その最後の有り様を現在に伝えるのみである。また、虎頭要塞のシンボルともいえる四一センチ榴弾砲は、戦後ソビエトが持ち去ろうとしたが、アムール川を渡る際にフェリーが砂州に乗り上げてしまい、そのまま回収不能となって朽ち果てたと伝えられている。

(隔週日曜日に掲載)

■試製41cm榴弾砲
重量:砲身75.8t、放列砲車318.0t
寸法:口径410mm、砲身長13.4m
高低射界:-5〜+75度
方向射界:360度
最大射程:20,000m
弾量:1,000kg

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