棚橋ももう40代。新日本プロレスのために酷使し続けた肉体はボロボロだ。しかし、棚橋は「新日本プロレスの中心に戻る」と、諦めることなく闘い続けてきた。なぜならば闘いの先には必ず“IWGPヘビー級王座”が見えてくると信じていたからだ。
「必ず真ん中にまた戻りますので、見ててください」
2016年のG1クライマックス最終日。大会終了後、荷物をまとめた棚橋は帰り際、マスコミ一人一人に力強く話しかけながら握手をしていた。あれから数えても1年9ヵ月も時間が経っている。普通なら心が折れてしまうところだ。今年の2月に1ヵ月の長期欠場をし、体のケアと肉体改造をして臨んだ『ニュージャパンカップ2018』でも決勝でザック・セイバーJr.に敗れ「やはり棚橋はもうIWGPに挑戦できないのか?」と思われたが、棚橋は諦めなかった。ザックを相手に同王座を防衛し、防衛記録を棚橋と並ぶ最多の11回に伸ばしたオカダの前に現れたのは、棚橋だった。
「次、オレしかいねぇだろ?」
これを逃したら再び挑戦する機会はめぐってこない。棚橋はそれぐらいの気持ちでオカダの前に立ったに違いない。棚橋の諦めない気持ちの集大成がこの言葉に詰まっていたように思えた。もちろんオカダに断る理由はない。かつて「今世紀の名勝負数え唄」とも言われた、新日本プロレスの「黄金カード」が5.4福岡大会で2年4ヵ月ぶりに実現することとなった。
今シリーズの各会場で連日繰り広げられている前哨戦では、オカダが強さを見せつけている場面が目立ちがちではある。ただ、棚橋の円熟味を増したインサイドワークも節々に見られる。なかなか言い表しづらいが、棚橋からは“安心感”のようなものを感じるのだ。現在の新日本マットの傾向を見ると、今回勝てなければ棚橋にとって最後のIWGP挑戦になる可能性はあるかもしれない。ただ、どちらが勝つにしても棚橋とオカダの闘いに終わりはないように思う。なぜなら新日本プロレスという団体が元来持っている“闘い”が2人の間にはしっかりと根付いているからだ。5.4福岡大会のIWGP戦が名勝負になるのは間違いない。
取材・文 / どら増田
写真 / 萩原孝弘