■手取り額
日本では高年俸の選手に45%の所得税と10%の地方税が掛かる。そのため55%を税金に持っていかれ、手元に残るのは45%に過ぎない。
米国では所得税(連邦税)の最高税率が39.6%なので、日本人大リーガーはまずこれを支払う義務が生じる。
これに地方税(州税+市民税)が加わるが、米国では州税のない州が7州ある反面、州税率が10%を超す州もいくつかある。そのため地方税が2〜3%で済む人もいれば10%を超すケースもある。
2〜3%で済むのは州税がない州に居住し、かつ所属球団も州税がない州にあるケースだ。岩隈久志は州税のないワシントン州シアトルに自宅を構えている。球団もシアトルにあるため、地方税の負担は2〜3%で済み、連邦税と合わせても総納税額は42%にとどまり、58%が手元に残る。
逆に田中将大は球団の所在地が州税の高いニューヨーク州で、自身も同州(ニューヨークのマンハッタン)に居住しているため10%を超す地方税を収めないといけない。そのため連邦税と地方税を合わせた総納税額は50%近くになり、手元に残るのは年俸の半分ということになる。
■代理人に年俸の5%
それ以外に避けられない大きな出費がある。代理人に対する報酬で、年俸の5%が出ていく。それにより最終的に残るのは年俸の45〜53%になってしまう。
■メジャー流節税法
多くのメジャーリーガーが実践しているのは、州税負担の大きい州から州税のない州に移り住むことだ。ニューヨーク州は地方税が際立って高いため、ヤンキースの選手は大半が州税のないフロリダ州に自宅を構えている。ヤンキースの主力選手でニューヨークに自宅があるのは、節税に無頓着な田中将大だけである。
■年俸以外の収入
(1)インセンティブ
故障リスクの高い選手は保証年俸が低く抑えられ、稼働率に応じてインセンティブ(付加給)が支払われる契約になるケースが多い。
その典型が前田健太で、保証年俸は300万ドルしかないが、故障せずに32試合先発と200イニングを同時にクリアすれば1015万ドル(11億円)のインセンティブが出る契約になっている。岩隈久志も190イニングをクリアすると250万ドル、青木宣親も500打席で100万ドル(1億1000万円)、600打席で200万ドル(2億2000万円)支払われる契約を交わしている。
(2)ポストシーズン分配金
日本では日本シリーズに勝っても優勝チームの選手が手にする分配金は300万円程度だが、メジャーの分配金はそれより一ケタ規模が大きい。昨年はワールドシリーズに勝ったロイヤルズの選手に37万ドル(4100万円)、敗れたメッツにも30万ドル(3300万円)支払われた。それだけでなく、リーグ優勝シリーズで敗退した2チームの選手に13万ドル(1430万円)、地区シリーズで敗退した4チームの選手に3万6000ドル(400万円)、ワイルドカードゲーム(1ゲームプレーオフ)で敗退した2チームの選手に1万5000ドル(165万円)の分配金が支払われており、計10球団の選手が分配金にありついた。
(3)グッズ収入
MLBと選手会との協定でグッズの売り上げ収益は選手に平等に分配される決まりになっている。そのため、フルシーズン在籍した選手には数万ドルの分配金が支給される。
(4)航空チケット
日本人選手には家族1人につき毎年、日米間の往復航空券(ファーストクラスかビジネスクラス)が2枚支給される。上原浩治は奥さんと子供2人の計4人家族なので、8枚の往復航空券(金額にして720万円相当)が球団から支給されている。
(5)家賃補助
日本人大リーガーの契約書には球団が毎年3万ドルから5万ドルの家賃補助をするという項目が入っているケースが多い。この金額が一番高いのは田中将大で、毎年10万ドル(1100万円)が支給されている。しかし、現在住んでいるマンハッタンの中心部にあるトランプタワーのコンドミニアムは家賃が月額650万円なので、それほど助けにはなっていないようだ。
このように、日本人大リーガーは年俸以外に様々な収入があるので、メジャーに行って2、3年目には郊外の高級住宅地に立つ豪邸を200万ドル(2億2000万円)程度で購入し、日本では味わえないセレブな暮らしを満喫することになる。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。