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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

 悦楽の1冊『革命とサブカル―「あの時代」と「いま」をつなぐ議論の旅』安彦良和 言視舎刊 2200円(本体価格)

★ガンダムの生みの親が「全共闘時代」を総括

 いまさら振り返れば「戦争」とは、「国家」とは何かを考える上で基礎的な語彙が自分にとってどこで蓄積されたか。昭和49年生まれの筆者に近い世代ならほとんど、子供時分に見たTVアニメ『機動戦士ガンダム』からの吸収ないし刷り込みが圧倒的ではなかろうか。少なくとも小学校の図書室に備え付けの『はだしのゲン』より影響力はずっと、な気がする。

“捕虜の待遇を定めた南極条約”なんて軍事や政治の専門用語はもちろん、「大気圏」の存在も、敵側として登場するジオン公国の兵が叫ぶ「ジーク・ジオン!」のジークがドイツ語で「勝利」を意味し、どうやらナチスがモデルらしいことも、あるいは魅惑的な響きの宇宙要塞の名「ア・バオア・クー」がボルヘスの著作に出てくるインドの幻獣を指す…などみんな「ガンダム」から教わったもの。その作者である安彦良和氏がバリバリの全共闘世代だとは無論のちに知るわけだが、かつて学生運動に身を投じた仲間、同志、はたまた敵対関係にあった人々との再会と対話を通じて、60年代末から70年代半ばまでの俗に云う“政治の季節”の再検証、ひいては戦後史の総括を模索する試みの本書。さながら思想版『舞踏会の手帖』の趣きとはいえ、史上空前の悪書といまだに誉れ低い『全共闘白書』の類とは厳しく一線を画す緊張感に満ちた読み応えなのは、安彦氏の精神が弛緩とも硬直とも無縁なゆえだろう。

 ’72年の浅間山荘を取材した新聞記者の父とその文章に興味を抱いた母が出会った結果この世に生を受けた筆者にとって、連合赤軍事件は単なる歴史年表の一項目、赤の他人事では決してない。全共闘=ガラパゴス左翼などと一括りにして片付けた錯覚に陥る愚を犯さぬためにも、この大冊、熟読が必要だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

『日本の特別地域特別編集』(マイクロマガジン社/1400円+税)と題された本をご存じだろうか。全国都道府県と各地の主要な市、東京23区まで、各地の魅力を徹底解剖した上で、でも、何だか欠点も不安もあるぞ…と、重箱の隅をつつくように問題提起するシリーズである。

 この問題提起が、抜群に面白い。最新刊は「これでいいのか茨城県」。世帯収入は全国でも上位、住宅の敷地面積第1位、水戸黄門を輩出して以来の屈指の教育県と、県が持つポテンシャルの高さは目を見張る。だが、民間調査会社が毎年行う「都道府県魅力ランキング」では、7年連続最下位。「何かがおかしい、もうちょっとしっかりすっぺ」と提起している。

 茨城のダメなところを羅列されると、納得するところもある。観光地は知名度が著しく低く、地元グルメは非独創的。水戸偕楽園が梅の名所ということ、袋田の滝が「日本三名瀑」の一つであることくらいしか知らない。グルメに至っては、全く思いつかない。

 さらに悪名高き「茨城ダッシュ」。交差点で信号待ちしている車が、赤から青に切り替わる瞬間に急発進して強引に右折するのが慣例といわれる交通マナーだ。そのせいか、ヤンキーが多い県という印象も強い。

 シリーズすべてに、こうしたネタが満載。現在まで93巻が発売されている。バックナンバーを調べれば自分が住む地の1冊が見つかり、メリット、デメリットが読め、思わず納得(または反発?)できるかも。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 岩井勇気
俺の人生には事件が起きない 新潮社 1,200円(本体価格)

★しゃべりのリズムは崩さないようにした

――本書は『小説新潮』の連載をまとめたものです。初エッセイを依頼された時はどう思いましたか?
岩井 今まで文章を書いたことのない俺に、最初は「何で?」と不思議でしたが、同時に「やっぱり来たか!」と思いましたね。客観的に見ても“陰キャラ”ですが、やはり醸し出している雰囲気があったんでしょうね。自分でも「そーだよねー」と変に納得してしまいました。そもそもエッセイって、芸能界なら地位のある40〜50代の女優さんが、演技や人生について語るっていうイメージを持っていて、芸人の俺が書いても「売れるわけないだろー」と思いましたよ(笑)。

――ありふれた日常が「めちゃくちゃ面白い!」と評判です。なぜ、普段の生活を題材にしようと思ったのですか?
岩井 そもそも、俺の人生、そんな面白いことなんて起きてないんですよ。だから、わざわざ文章にするネタがないんです。だったら、むしろ、何もないことを面白おかしく書いたほうが意味あるんじゃないかと考えました。もともと、文章はネタかツイッターくらいしか書いたことがないですし、本だって漫画しか読んでません。今さら変に格好つけるよりも、日常を淡々と切り取って見ようと考えました。ただ、ネタと同じように“しゃべりのリズム”だけは崩さないように気をつけましたね。

――実際に作家をやってみて、芸人との違いを感じましたか?
岩井 テレビは大勢の人間が関係していますから、自分の好き勝手はできません。よく目立とうとして長くしゃべる芸人がいますが「お前がそんなに時間を使うな!」っていつも思ってます。
 でも、本ならどんなに長く書こうが、つまらなかろうが「嫌なら買わなくて結構」ですからね。まぁ、売れなくても出版社が困るだけですし(笑)。あとは、待遇の違いを感じますね。芸人って下手に出て仕事をもらうことも多いですし、テレビでは「所詮、芸人だから」と蔑まされることがありますが、作家は「先生」と呼ばれるんですよ。いつも持ち上げてくれるし、いい気分になれるのはうれしい点です。もっとも、俺自身は自分が書くことで、作家の地位を下げてやろうと考えてますけどね(笑)。

――でも、売上は絶好調ですね。アピールする点はありますか?
岩井 まだ読んでいない方は前書きと後書きだけでも読んでみてほしいですね。その部分だけでも岩井がどんな人間かがよく分かると思います。読めば絶対に買いたくなるハズです(笑)。
(聞き手/程原ケン)

岩井勇気(いわい・ゆうき)
1986年埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と’05年に「ハライチ」を結成、注目を浴びる。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。本作が初めての著書になる。

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