共にミステリなどを手掛ける小説家でもある笠井潔さんと小森健太郎さんを中心に、若手評論家が集い結成された「限界小説研究会」は、2008年に西尾維新や谷川流、竜騎士07、桜庭一樹らの作品を扱う評論集『探偵小説のクリティカル・ターン』(南雲堂刊/笠井潔/限界小説研究会編:小森健太朗/飯田一史/蔓葉信博/福嶋亮大/前島賢/渡邉大輔)を上梓。以降、SFやミステリやアニメやゲームや映画など様々なエンターテインメントのフィクションを論じてきた。
昨年出版された『社会は存在しない』(南雲堂刊/限界小説研究会編:笠井潔/小森健太朗/飯田一史/岡和田晃/小林宏彰/佐藤心/蔓葉信博/長谷川壌/藤田直哉)では、ゼロ年代(2000-2009年)のエンタメをリードしてきたと目される「セカイ系」を論じた。「セカイ系」とは『新世紀エヴァンゲリオン』や『最終兵器彼女』や『涼宮ハルヒ』シリーズなど「君と僕」の閉じた関係が「社会」をすっとばして「世界の滅亡」やら「この世の果て」と直接リンクしてしまう作品群を示す。タイトルはマーガレット・サッチャー元英国首相の言葉から来ている。「セカイ系」を思わせるようなこの発言が、現実の政治家から出てきたものであったように、フィクションとノンフィクションを横断する問題系に、執筆者それぞれの観点から着目した。
そして今年12月2日に発売されたばかりの『サブカルチャー戦争』(南雲堂刊/限界小説研究会編:笠井潔/小森健太朗/飯田一史/海老原豊/岡和田晃/蔓葉信博/藤田直哉/渡邉大輔/白井聡)では、その「セカイ系」の先に続く「世界内戦」をテーマに据え、9.11以降に変化した「戦争」の意味を問い質す。この「戦争」とは世界大戦など日常を覆う「大きな戦争」のみならず、経済戦争など日常に潜む「小さな戦争」も含まれる。戦争が遍在する「例外状態」がデフォルトの現実をいかに生き抜くべきかを、やはりフィクションとノンフィクションをひもづけながら解き明かしていく。
扱われる題材は総じて新しい作品だが、それを意味づける言葉は古びた思想だったりもする。両者をぶつけることで思想はリニューアルされ、作品はルーツを獲得する。新しいものばかり持て囃して、古き良き伝統を腐らしてしまっては元も子もない。だからこそ古いセカイを発酵させるための新しい菌が必要だ。兵器ではなく利器としての毒が。ラディカルな言説で世界をアジる限界研の仕事も、暴力社会を毒抜きするワクチンのひとつに他ならない。(工藤伸一)
以下、青山ブックセンター本店イベント情報ページより転載
http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_201010/1218.html
『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』刊行記念トークショー
「世界内戦とロスト・ジェネレーション」
・出演:笠井潔×白井聡×鈴木英生/司会:藤田直哉
・日時:2010年12月18日(土)18:30〜20:00(開場18:00〜)
・会場:青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山
・定員:100名様
・入場料:500円
・参加方法:2010年11月26日(金)10:00より
[1] ABCオンラインストアにて予約受付いたします。
[2] 本店店頭にてチケット引換券を販売。
※入場チケットは、イベント当日受付にてお渡しします。
※当日の入場は、先着順・自由席となります。
※電話予約は行っておりません。
・お問い合わせ電話:青山ブックセンター本店
※受付時間は、お問い合わせ店舗の営業時間内となります。御注意ください。
<イベント内容>
9・11と、リーマンショックによって、グローバリズムの破綻が顕著になってきている。様々な国の内部で分裂が生じ、日本国内でも「格差」や「ロスジェネ」が問題となっている。
そのような「世界内戦」状況下において、『東のエデン論』を書いた笠井潔と、「物質の蜂起」を説いた気鋭のレーニン研究者・白井聡、『新左翼とロスジェネ』で学生叛乱の精神の現代的な形を模索した『蟹工船』ブームの立役者鈴木英生。三人にくわえて、司会として実際にロスジェネ的生活を送っている藤田直哉が参加し、「世界内戦」の現実において総ロスジェネ化とも言うべき事態にどう対処すべきか、「新左翼」と「ロスジェネ」が激論を交わす。
限界小説研究会論集『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』刊行記念トークショー。
<プロフィール>
笠井潔:1948年東京生まれ。1979年に『バイバイ、エンジェル』で第5回角川小説賞受賞。主な小説に『ヴァンパイヤー戦争』、『哲学者の密室』、『群衆の悪魔』、『青銅の悲劇』、など。評論は『テロルの現象学』(筑摩書房)、『国家民営化論』(光文社)、『例外社会』(朝日新聞出版)など。
白井聡:1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位修得退学。博士(社会学)。多摩美術大学・高崎経済大学・早稲田大学非常勤講師。著書に、『未完のレーニン』(講談社)、『「物質」の蜂起をめざして−−レーニン、〈力〉の思想』(作品社)。
鈴木英生:1975年、仙台市生まれ。京都大学経済学部卒。2000年、毎日新聞社入社。青森支局、仙台支局を経て、05年より学芸部。著書「新左翼とロスジェネ」(集英社新書)。雑誌掲載記事に「実存か政策提言か」(現代の理論21号)、「森崎和江の世界」(環38号)「論壇は長く続く……」(朝日ジャーナル別冊1989-2009)、「『六八年』ブックガイド」(情況09年12月号)など。構成を手がけた本に姜尚中東京大教授と中島岳志北海道大准教授の対談「日本」、中島准教授の対談集「中島岳志的アジア対談」。
<書籍紹介>
『サブカルチャー戦争−−「セカイ系」から「世界内戦」へ』
限界小説研究会 編 四六判上製/416ページ/税込2625円/12月2日発売
9・11以降、アニメや映画などに描かれる戦争はどう変わったのか?
2000年代前半に隆盛したセカイ系作品の戦争像と2000年代後半以降の戦争像。9・11テロを境に大きく変化したサブカルチャーに描かれる戦争。現実の戦争や経済戦争に影響を受けたアニメ、映画、マンガなどの作品を中心に論じたサブカルチャー評論!