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トヨタ“大政奉還”の成否

 トヨタ自動車工業は4月、豊田章男副社長が社長に就任する。この発表と同時に営業利益を下方修正し、今期の1500億円にのぼる赤字計上の見込みを公開するという大改革に乗り出した。マスコミ各社は「豊田家への大政奉還」などと騒ぎ立てているが、実際、日本経済をけん引してきた“世界のトヨタ”の行く末はどうなるのだろうか?

 オーナー企業はマイナスイメージが強い。最近では、保守的で融通が利かないというオーナー経営者のイメージにプラスして、老舗オーナー食料企業の不祥事が相次いだため、ますます風当たりが強くなった。しかし、欧米ではオーナー企業の評価は決して低くないようだ。
 経済アナリストの清水崇氏は次のように解説する。
 「実際に欧米自動車産業ではオーナー企業がめじろ押しです。米フォードは創業家であるフォード一族が発行済み株式の40%超を保有。イタリアのフィアットはアニエリ一族が30%を持ちます。独BMWは同社を吸収合併したクヴァント一族が50%超、仏PSAプジョーシトロエンは創業者のプジョー家が30%、独ポルシェは創業のポルシェ博士の一族が100%保有し、さらにポルシェを通してフォルクスワーゲンの議決権株式の75%を保有しています」
 さらに最近では、オーナー企業の優位性も検証されている。
 「第一にオーナー企業は不況に強い。データから見て、雇用の維持を優先する。そのため従業員はオーナーに求心力を感じ、モチベーションを維持することができる」と関係者は話す。全産業のなかでも大手自動車メーカー各社は特に、派遣切りなどで雇用条件のさらなる悪化が懸念されているところ。労働者にとって不安は尽きず、それゆえモチベーション向上は喫緊の課題とされる。

 「第二にオーナー企業は長期展望を実現できる。米国企業の多くは株主至上主義にある。専業経営者は株主の顔色を伺わざるを得ず、短期の利益を追求することになり、長期的な視野に基づく方策をとりにくい」(同関係者)
 しかしトヨタ自動車の場合、株式の保有率では豊田家は決してオーナー家とはいえない。豊田家の持ち株は少なく、関連会社の株式の持ち合いで成立しているからだ。
 豊田家への大政奉還の意味を思慮すれば、原初に戻る再生指向か。大量解雇の一方でスタートへの回帰を喧伝することにより、生じるであろうあつれきを少しでも減らすことができる。従業員からの評価が再生のカギを握りそうだ。
 トヨタのルーツといえば豊田佐吉だ。地元愛知県が誇る立志伝中の人物で、自動織機を開発して現トヨタの礎を築いた。農家の出身だったが、父が大工仕事に長けていたため、農民でありながら大工仕事に従事。艱難辛苦(かんなんしんく)のすえ自動織機を開発する。その普及に寄与したのは、機械の性能はもとより、当時広まっていた自動織機が木製だったこと。つまり、外国製の自動織機に比べて廉価で販売できたのである。
 良い物を安く売るのは商いの鉄則だ。この伝統に章男氏はどこまで従えるだろうか。
 章男氏は慶応義塾高校から、ハワイのプンホウスクールに学んだ。この高校には5年遅れて米オバマ大統領も学んでおり、両者同窓生の関係にある。
 慶応大学に進んだのち米国バブソン大学でMBAを取得し、米国の投資銀行に就職。2年後トヨタに就職するが、そのとき父章一郎から特別扱いはしないと言われた。現にトヨタで係長から平社員への降格も味わっている。
 以後国内営業や生産管理を担当し、販売部門への「カイゼン」活動の横展開などを通じ、販売部門の改革を主張した。
 その経営能力については未知数と評価する声が多い。しかし、再出発にあたっては少なくとも豊田家の象徴である物作りの原点に回帰するとともに、オーナー経営者は雇用の維持に全力を尽くすというデータを裏切らないで欲しいものだ。

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