ホアンキエム湖とタンロン城郭、そしてロンビエン湖に囲まれたこの一帯は、「ハノイ旧市街36通り」と呼ばれガイドブックには必ず載っている観光スポットだ。しかし本を見てここに来た人はきっとこう思う。
「一体どこが見所なんだ?」
魅力がないという事ではない。むしろベトナムらしい光景が広がる観光の中心。だが、その変態的なストリートの多さのせいで注目すべき場所というのが分からない。アクセントがないとでも言えばいいのだろうか、建物の背丈はどれも同じでどこへ行っても似た風景。
案の定私も「あれ、さっきここ来たなぁ」「あのおっちゃんさっきも声掛けてきたぞ?」などとぶつぶつ言いながら思い切り迷ってしまった。
それでも時々現れるアオザイ娘のチラリズムに目を泳がせながら歩いていると、ふと細い路地の奥に、ずいぶん違った雰囲気のストリートが見えてきた。暖色系の明かりに包まれた人々の笑い声になんだか陽気なおじさんの歌い声。
この終わりの見えない迷路のゴールを見つけたような、そんな気がしてくる。吸い込まれるように路地に入ると、奥に進むにつれて漂ってくるいい匂い。ストリートに顔を出すと、そこには道の両脇にずらりと並べられたテーブルで、ジョッキを片手に肉を頬張る人々の姿があった。
50メートルはあるだろうか、軒を連ねる店のほとんどで外国人達がバーベキューをしている。私もせっかくなのでたまたま声を掛けられたところに入ることにした。その店を仕切っているベトナム人の兄ちゃんにやはりバーベキューを勧められたのでそれを頼む。しばらくして、東京ドームの売り子のような可愛らしい格好をした姉ちゃんがコンロを持ってきた。その後にお肉の登場だ。
牛肉、豚肉、鶏肉、イカに玉ねぎ、人参、えのき、トマトなどなど。1人分とは思えない量が皿に盛られ、ご飯もついてくる。日本の焼肉屋であれば3人前と言ったところか。お肉にはそれぞれ味付けがしてあって、それがまた美味しい。これはビールが進む。具の1つとしてついてくるパイナップルはそのまま焼かずに食べてももちろん良い。締めのデザートもついてお腹も心も大満足。なんとこれでたったの500円だ。
肉を焼きながら眺める景色も面白い。色とりどりのバルーンをプカプカさせた風船屋がひっきりなしに通り、飯を食らう体のデカい欧米人にポコポコ当たってしまう。スピーカーでベトナムの民謡を歌いながら練り歩くおじさん。さっき聞こえてきたのはこの人の歌声だ。そしてちょっと困るのは、可愛い顔した子供がライターやお菓子などを売りにやってくるということだ。正直いらないが、目が合ったら最後。「お願い。買って!」と腕を取り、真っすぐにこちらを見つめてくる。これはずるい。
後日また同じ店で今度はしゃぶしゃぶを頼むと、皿は2つに増えさらに豪華になっていた。トマトが良く効いた味付けでベトナムの気候によく合う。値段はもちろん500円。
たまたま見つけたTa Hien streetからDinh Liet streetへと続くバーベキュー通り。夜になると酒好きと肉好きがどこからともなく集まるハノイのオアシスだ。
國友俊介
【プロフィール】
國友俊介 (くにとも・しゅんすけ)
旅×格闘技、アジアを自転車で旅をしながら各地のジムを渡り歩いている。目標は世界遺産を見ることではなくあくまで強い男になること。日本では異性愛者でありながら新宿2丁目での勤務経験を持つ。他にも国内の様々なディープスポットに潜入している。
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