乳幼児にも感染が広がる中、全国の幼稚園や保育所などの保育施設では、厚生労働省のガイドライン等に基づいて慎重な感染対策が取られている。
厚生労働省が各都道府県の保育関係機関に向けて作成したガイドラインでは、全国民に向けた呼びかけと同様に、マスクの着用を含む咳エチケットの実施を始め、手洗いやアルコール消毒の必要性が強調されている。加えて、全国保育園保健師看護師連絡会が作成した「保育現場のための新型コロナウイルス感染症対応ガイドブック」では、「職員は原則マスクを着用すること」を義務付け、送迎の保護者もマスクを着用するように示されている。その他、毎朝子どもと送迎者の検温記録を提出したり、施設に入ってすぐに手洗いや手指の消毒ができるような配置を行うといった具体的な方法が示されており、実際の保育現場で実践されている。
5歳以下の幼児のマスクの着用については、「5歳以下の子どもへのマスクの着用は必ずしも必要ない」というWHO(世界保健機関)の見解に基づき、いずれの保育施設においても比較的柔軟な対応が取られている。こと2歳未満の乳幼児については、マスクを着用し続けることで息苦しさや体調不良を引き起こしやすく、窒息や熱中症のリスクが高まることが指摘されており、マスクの着用が推奨されていない。
いずれにしても、保育施設内での感染を防ぐためには、大人のマスク着用が欠かせない。ただ、こうして相手の表情を認識しにくい状況が長く続くとなると、子どもの心の発達に良くない影響を与える可能性がある。
それと言うのも、人は乳幼児期から身近な人々の表情を参考にして、社会性を身につけていくからだ。
発達心理学において、乳幼児期の最も早い段階では、生後半年頃から養育者の表情の違いや変化を認識するようになると言われている。その後、次第に理解が進み、9か月頃からは他人の表情が示す意図を大まかに読み取れるようになる。1歳頃になると、自分が初めて会う人や動物、新しいおもちゃなど、初めて見るものについて安全かどうかを養育者の表情から確認する「社会的参照」という現象が見られるようになる。例えば、養育者が恐怖して強張る表情から、その状況を危険だと判断できるようになるのだ。
そして、共感や気づきを通して表情に関する情報を学んでいき、やがて5歳になる頃には、喜怒哀楽などの基本的な感情を表す表情をしっかりと理解できるようになる。乳幼児はこうして表情から他人の感情や周囲の状況を理解できるようになると同時に、学んだ表現方法を取り入れることによって、自分の表情や表現力の幅を広げていく。
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このように、乳幼児が他人の感情や周囲の状況を表情から読み取れるような社会性を養うためには、養育者や保育士、同年代の幼児など、身近に接する人々の表情をたびたび確認できる環境が必要だ。
ところが、コロナ禍のマスク生活においては他人の表情を確認しにくいために、こうした社会性の発達が正常に行われにくい可能性がある。ひいては、将来的に人と会話的なコミュニケーションを取る上でトラブルを起こしやすくなったり、感情を表現する能力がうまく養われなかった場合、ストレスを溜めやすく、心理的なトラブルを抱えやすくなってしまう恐れもある。
こうしたリスクを少しでも低下させるためには、家庭での生活がポイントになる。外出先でのマスクの着用は仕方ないとして、家庭ではマスク以外の感染対策を取った上で、いつも以上にコミュニケーションの機会を増やすように心がけたい。言葉が話せる幼児であれば、しっかり目と目を合わせて会話をするようにし、まだ話せない乳児であれば、十分に語りかけを行う。語りかけを行う際には、やはり目と目を合わせながら、声をやや高めのトーンで、かつ抑揚をつけて話しかけるようにすると良い。
何より、乳幼児にとっては、家族の笑顔こそが優れた発達教材と言える。
文:心理カウンセラー 吉田明日香
厚生労働省
「保育所等における新型コロナウイルスへの対応について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000599965.pdf
全国保育園保健師看護師連絡会
「保育現場のための新型コロナウイルス感染症対応ガイドブック 第2版」
https://www.hoiku-kango.jp/wp-content/uploads/2020/10/保育現場のための新型コロナウイルス感染症対応ガイドブック第2版.pdf