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センバツ情報 決勝戦進出・高松商の意識改革

 第88回選抜高校野球大会(以下=センバツ)は智弁学園(奈良)の優勝で幕を閉じた。だが、昨秋の明治神宮大会覇者でもある高松商(香川)が決勝戦進出を果たしたことで地元の高校野球関係者は安堵しているのではないだろうか。
 地元関係者によれば、同校をセンバツの決勝戦に導いた長尾健司監督の抜てきは“賭け”に近かったという。
 「付属の監督さん」。地元関係者、高校球児たちは就任前の長尾監督をそう呼んでいたという。長尾監督が名門・高松商に招かれたのは2014年4月。センバツを戦った新三年生と同じである。

 当時を知る地元関係者がこう言う。
 「近年、香川県の高校野球の低迷を心配する声が各方面から出ていました。白羽の矢が立てられたのが香川大教育学部付属坂出中学校で軟式野球部を指導していた長尾監督でした」
 香川県に限らず、公立高校の場合、人事交流などで中学校の教諭を高校に異動させることは珍しくない。中学校の教諭でもあった長尾監督の高松商異動は『人事交流』となっているが、名門野球部の復活を託してのものだったそうだ。
 「長尾監督の指揮していた付属中は、08年に春、夏、秋の3大会で県優勝、10年秋には四国大会優勝を果たし、全国大会にコマを進めています」(地元関係者)
 08年の3大会制覇は赴任3年目のこと。野球の強い中学校ではなかった。県内屈指の進学校である。放課後の部活動時間は1時間ないそうだ。野球部員のほぼ全員が6時から進学塾に通っていたという。それでも08年に快進撃を見せ、それ以降は「四国大会の常連、野球強豪中学校」とも言われるようになったのは、長尾監督による“意識改革”だった。部員たちに訴えたのは、練習への取り組み方。1時間もない練習を有意義なものに変えるため、「効率よく、集中して」と説き伏せた。教え子も高校野球で活躍するようになり、関係者の目に止まるようになった。

 名門・高松商野球部の監督に着任し、真っ先に「変えた」のは、上下関係だった。一年生も二年生も関係ない、三年生もグラウンド整備をやる。野球部活動は、実質2年半しかない。だったら、その限られた時間をできるだけ練習にあてるべきだ。上級生もグラウンド整備をすれば、早く練習を始められる。そのほうが…。伝統校の野球部員たちにそう語りかけた。
 香川県の甲子園出場校だが、長尾監督着任前の2013年までの過去10年間を見てみると、センバツ出場権を得たのは2大会3高校のみ。いずれも初戦敗退。夏の甲子園大会でも、同期間で初戦突破を果たしたのは2校だけ。香川県の高校野球関係者も「改革の必要性」を感じていた時期だった。

 昨秋の四国大会後、同校のグラウンドで二年生がトンボ掛けをしていた。聞けば、一年生大会に出場する後輩たちのために自主的に始めたのだという。室内練習場からは、ボールを打ち返す音が聞こえてきた…。
 一年生は当然、先輩たちの心配りに感謝していた。上級生が後輩たちを思いやる気持ちがあれば、下級生も先輩を敬うようになる。自ずとチームも一丸となっていく。「効率よく、集中して、時間を有意義に使う」とは、前時代の悪しき伝統を変えるにもつながるようだ。(スポーツライター・美山和也)

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