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球界地獄耳・関本四十四の巨人軍、ダッグアウト秘話(15) スパイ大作戦

 V9監督・川上さんとV9頭脳の牧野さんの息はぴったりと合っていた。あうんの呼吸だね。ベンチの川上さんから三塁コーチャーボックスの牧野さんへサインが伝達される。その方法は独特だった。

 川上さんがまずベンチにいるベテラン選手に対し、声を出して指示を伝える。それを受けたそのベテラン選手が牧野さんにサインを送る。今だと監督が三塁コーチに直接指示するか、ベンチにいるコーチを通じて三塁コーチにサインを伝達する。なぜ、ベテラン選手が中継役になったのか。当時はスパイ野球全盛だったからだ。相手がノーマークのベテラン選手を使ってサイン盗みを防ごうとしたんだ。
 とくにパ・リーグは盛んだったから、日本シリーズの時には、さらにスパイ防止策は強化された。5度戦った阪急相手の時には、まずベンチ内に盗聴器が仕掛けてないか、徹底的に探す。怪しげな配線がしてあると、ニッパで切断する。川上さんからの声を受けてベテラン選手が牧野さんに伝える方式も改められた。川上さんが声を出し指示していると、読唇術でサインを解読される恐れがあるからだ。
 どうしたかというと、ベンチ内に置かれた炭火の入った四角い一斗缶を使った。火箸を持った川上さんが1回コンと叩けばバント。コンコンと2回叩けばエンドランド決めておく。その音を聞いたベテラン選手が、三塁コーチの牧野さんに伝える方法だ。これなら、双眼鏡でベンチ内の川上さんの一挙手一投足を追っていても、サインを解読される恐れはない。

 まるで昔のスパイ大作戦、今風に言えばミッションインポッシブルだが、実際にそれくらいスパイ野球が当たり前の時代だったのだ。ドーム球場の多くなった今、ベンチに炭火というのも、なかなか見られない光景で、時代の流れを感じるけどね。
 こういうスパイ対策も牧野さんの専売特許だった。阪急との日本シリーズといえば、世界の盗塁王・福本さん封じの秘策も忘れられない。わざと暴投させ、バックネットに当たって戻ってくるクッションを計算して、一塁走者・福本を三塁で刺す。あの伝説の福本封じも牧野さんが考え出したものだ。
 川上さんが牧野さんに全幅の信頼を置いているからできた芸当だろうね。時には、牧野さんが独自の判断でサインを出していたこともあった。「ミスター(長嶋)にこういうサインを出しておいたからね」と、川上さんに事後報告している姿を何回か見たことがあるよ。ノムさん(野村氏)が阪神監督時代に、「三塁コーチの伊原(現巨人ヘッドコーチ)が勝手にサインを出しよった」と激怒した事件があった。でも、川上さんと牧野さんの間には、そんな不協和音は全くなかったよ。
 V9川上野球は、イコール牧野野球でもあった。これは事実だね。

<関本四十四氏の略歴>
 1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
 引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。

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