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電車の遅延で文句はありえない? 時間厳守のドイツ、交通事情はアバウトな理由

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 新幹線や電車など、公共交通機関の正確さが称賛されることの多い日本。しかし先日の大雨では東海道新幹線が運行を見合わせ、多くの人に影響が出た。状況が状況だけに理解を示す人が多かった一方で、車内や駅構内にとどまらなければならない人もおり、いつ運転が再開するか分からないというアナウンスには「野宿しろということか」と怒りをあらわにした人がいたというニュースもあった。

 新幹線や電車が正確に来ることが普通な日本では、遅延や運休が人々に大きな影響を与えるようだ。しかしここまで新幹線や電車が正確な国は日本くらいであろう。

 “時間に正確”というイメージを持たれている国の一つがドイツであると思うが、実際、ドイツ人はとても時間に正確だ。9時に待ち合わせをしたならば、9時5分前でも9時過ぎでもなくきちんと9時に来る人が多いのだ。家で待ち合わせをした場合も9時きっちりにチャイムが鳴る。

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 ただし交通公共機関に関しては別だ。電車が遅れるのは日常茶飯事で5分どころか20分近く、もしくはそれ以上、予告なしに遅れることがある。そういったことが原因で遅延が起こり、ホームが変わることもしばしばで、ドイツを中心に運行されている高速列車ICE(日本でいう新幹線)が出発数分前にホームが変更になることはかなりの頻度で、遅延も多い。遅延するだけならまだしも「10分遅れる」というアナウンスが入ったのちに「あと10分遅れる」「あと20分遅れる」と次々と変更になり、とにかく来るまで待つしかない状況だ。

 遅れる原因の多くは列車のダイヤがアバウトであることだ。前の電車がホームに遅れて到着し、次の電車が前の電車の出発を待つことになり、さらに次の電車も遅れていくという、電車の渋滞が起きる。それが重なり最終的には大きな遅延になっていくのだ。また技術的な問題も挙げられる。重大ではないものの念のため安全のために電車が一時的に止まることがあり遅延につながる。コロナ禍以降は特に人員が削減されており、修理や点検に時間がかかる。まれではあるが動物が線路に侵入したり、雪で徐行運転を余儀なくされることも原因にある。なお、ドイツの公共交通機関はほぼ全て「ドイツ鉄道」が運営しているが、民営化されたものの株式の100パーセントを政府が持つ、実質政府保有の会社である。

 そんな状況であるのに人々が文句を言うのかといえばノーである。遅延はドイツ鉄道のHPやアプリケーションで告知されるほか、駅構内のアナウンスや電光掲示板を確認すれば分かるのだが、大幅な遅延でも駅員が大きな声でアナウンスしたり細かな情報を逐一伝えることはない。いくつかの方法で情報を共有しているのだから、全ては客側の自己責任。天候が関係している時は、天気予報を見なかった客側にも責任があるとされる。

 ドイツでは台風などは滅多に来ないため、日本のように6時間近く車内に閉じ込められることはないものの、2、3時間車内に閉じ込められるのは珍しくない。一部で大雪などもあるが原因のほとんどは技術的な問題。その場合、電車が止まって「原因が不明でいつ動くか分からない」と車内アナウンスが入り、とにかく待つしかなくなるのだ。

 そんな状況になっても客が文句を言うことはない。多少イライラすることはあるかもしれないが「あ、そうなんだ」とすんなり受け入れ、情報をとにかく待つという人が多いようだ。在独5年の日本人によると「最初は運転再開まで1時間くらいかかると言われて、その後さらに1時間、電中に閉じ込められたことがあったが、誰も文句を言わなかった」と語る。万一、車掌などに文句を言おうものなら「“自分たちだって分からない、電車を整備した人のせいだ”と、それ以上の剣幕で怒られるだろう」と話していた。別の在独7年の日本人は、何時間か待った末に電車が動かないから、途中で線路に降ろされ次の駅まで歩くように言われたことがあったそう。そんな時もほとんどの人が「ああ、そうか」といったように電車を降り、近くの最寄り駅まで歩いたという。なお、そういったことは頻繁に起こるため「そもそも大きなニュースにはならない」そうだ。

 ただそんなドイツでもドイツ鉄道側は遅延をなくすための努力はしており、2022年までに長距離電車の82パーセント時間通りに到着させるという目標を掲げた。ただ実行できず、目標達成期間を2025年までに延期。ちなみに2022年の長距離電車の定刻到着率は約62パーセントとのことだが、ドイツ鉄道では6分未満の遅れは遅延と見なさないと定義しており、実際にはもっと多くの電車が遅延している。なお、日本の東海道新幹線では2021年の1列車当たり遅延時間は自然災害による遅延も含んで0.9分(54秒)だった。

 目標期間を伸ばすなど、なかなか改善が見られないドイツの遅延問題だが、文句を言う人が少ないのは、人々が、当人の責任でないことは当人を責めず、仕方ないとあっさり受け入れられる面があることだ。前出の在独日本人は、ドイツ企業での出勤初日に大幅な遅延に遭い上司に何度も深く謝罪をしたら、むしろ謝罪している姿を不思議がられ「よくあることだから」で終わったという。

 別の日にはドイツ人の同僚が、別のルートはいくらでもあるにもかかわらず、「駅まで行くバスが来ないから」と会社に来なかったそうだ。その時も大きな問題にはならなかった。ドイツでは公共交通機関の遅れは公共交通機関側の問題で、本人は悪くないという風潮があり、さらにほとんどの会社が出勤時間にこだわらない。9時出勤で多少遅れても仕事をきちんとこなしていればいいと見なされる。「日本では天候のせいとはいえ遅延があれば会社に迷惑がかかると考えがちだが、ドイツではそれがない。乗客にストレスがかかりにくく文句を言うまでに至らないのかも」と分析した。

 日本での今回の大雨での遅延で不満を漏らした人に対しては批判の声もあったが、不満が出る背景には日本人の会社や周りの人に迷惑をかけてはならないという日本人独自の性質もあるのかもしれない。

記事内の引用について
「ファクトシート2022(Fact Sheets 2022)JR東海」
https://company.jr-central.co.jp/ir/factsheets/_pdf/factsheets2022-02-01.pdf

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