「蓮蓬篇」は壮大なストーリーにもかかわらず、ギャグ満載の銀魂らしい長編になった。物語の発端はエリザベスの失踪である。桂小太郎との些細な喧嘩話かと思わせる導入部であったが、予想を裏切って長大な長編になった。そして坂本辰馬の登場によってシリアス長編の期待が高まった。
坂本龍馬をモデルとする辰馬は、人気は高いものの出番が非常に少ないキャラクターである。その辰馬を掘り下げた長編は多くのファンが待ち望んでいたものである。しかし、圧倒的なボケキャラの辰馬は「蓮蓬篇」でもボケを連発し、シリアスな長編の緊張感を打ち砕き続けた。
過去にはギャグが全くないシリアス長編もあったが、「蓮蓬篇」は話が進まないほどのギャグの連続であった。また、「蓮蓬篇」には『機動戦士ガンダム』のパロディーが多いことも特徴である。これは元ネタを知っているか否かで好き嫌いが分かれるところである。
ストーリーとしての「蓮蓬篇」は桂とエリザベスの話でまとまった。しかも、桂のボケオチになっており、今後の展開に影響を及ぼさない話になった。これは長編「吉原炎上篇」や「かぶき町四天王篇」が地球人や天人の勢力図を塗り替える結果になったこととは対照的である。
ファンの期待を背負って登場した辰馬や辰馬の副官の陸奥であったが、「蓮蓬篇」でも心理が深く掘り下げられることはなかった。特に表面的には辰馬を悪く言う陸奥が辰馬の副官になった経緯は謎である。辰馬や陸奥をフィーチャーした長編は今後に期待する。
巻末には篠原健太の学園漫画『SKET DANCE』とのコラボ作品が収録されている。週刊少年ジャンプでは過去にも鳥山明の『DRAGON BALL』と尾田栄一郎の『ONE PIECE』、『ONE PIECE』と島袋光年の『トリコ』という豪華なコラボ企画を実現している。
これらと比べると『銀魂』と『SKET DANCE』のコラボは異色である。二人の作家が共同で一つの作品を描くのではなく、二人が相手の作品のキャラクターも登場させるコラボ作品を別々に描いた。この巻に収録されたコラボ作品は空知が描いたものである。
そのためにコラボ作品は『銀魂』の世界の中で『SKET DANCE』の主要キャラ三人が動いているという印象を受ける。『SKET DANCE』らしさがなくなっている点で『SKET DANCE』のファンには物足りなさが残る。この巻の作者コラムで空知は「空知の描くボッスン(『SKET DANCE』の主人公)は似ていない」と言われたと述べている。
一方で過去のコラボ企画には二人の漫画家が互いに相手をリスペクトする気持ちが伝わるものの、それが過度の遠慮になって作品の面白味を減じている面がある。それに比べると空知節で突き抜ける『銀魂』のコラボ作品は爽快である。主人公に華がないという作品のテーマも『銀魂』よりも『SKET DANCE』に強く当てはまるもので、相手の作品を読み込んでいるからこその毒になっている。
(林田力)